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自然栽培とは何なのか?
私が思う「自然栽培」
株式会社アース技研 代表取締役  佐藤 隆司
はじめに…
佐藤 隆司
佐藤隆司(さとうりゅうじ)
北海道出身。帯広畜産大学 酪農学科卒。
1年間のアフリカ放浪の後、貿易商社入社。その後、牧場施設設備メーカー勤務を経て、微生物飼料“アースジェネター”の発売に先立ち株式会社アース技研に入社。現在、同社代表取締役。学生時代からの放浪癖が抜けず、日本全国を営業範囲に、1年間の出張日数は200日を超える。
 皆さんご存知のように、木村秋則さんはこの世の者とは思えない想像を絶するような苦難を乗り越えて、本来自然が持っている力を最大限利用する事により、絶対不可能と言われていたリンゴの無農薬・無肥料栽培を見事に実現いたしました。

農業の世界では長年、常識と言われていた手法を覆す“匠の技”…木村さんの提唱する「自然栽培」について、私なりに考え思っている事を皆さんにご紹介しようと思いますのでお付き合い下さい。

 木村さんが実践されている「自然栽培」には、作物の土台となる「良い土」がとても大切です。そして、良い土にするためには土の中に棲んでいる“微生物”たち(土壌微生物と言います)の役割を決して欠かす事はできません。

そこで、これから「微生物の住む世界」のお話しと共に、「自然栽培」とはどのようなものなのかについて説明をしていきますので、大まかなイメージをつかんでみてください。
微生物とは?
 微生物とは私たちの肉眼では見えない細菌(バクテリア)、藻類、原虫、酵母、放線菌、カビ類の総称で、大きさは約1/1,000㎜(1ミクロン)前後と、とても小さな“生き物”です。

彼らは地球上に初めて現れた生物で、出現したのは約35億年前といわれています。地球の誕生が46億年前、人類の出現は約100万年前と言われていますから、気が遠くなるくらい昔からその環境に適応し、進化しながら現在まで生き続けて来ています。歴史的にはヒトの方がずっと遅れている訳で、微生物は“生き物”として私達の大先輩にあたります。

 土の中には多種多様な多くの微生物たちが棲んでいます。スプーン一杯(約1g)の土の中には数十億個の微生物がお互いにバランスを取りながら生活を営んでいるといわれています。この数だって、今の時点で解っている微生物の種類だけであって、実際にはまだまだ数多くの微生物たちが生活しているようです。

地球の人口は約50億人といわれていますから、スプーンたった一杯の土の中には地球上で生活している全人類の数ほどの多くの微生物が棲んでいる事になるわけです。したがって、この自然界には微生物の棲んでいない所がないといっても過言ではありません。

 山や森にはたくさんの草木が生い茂っていて、毎年冬になると落ち葉を地面にたくさん落とします。木は毎年大きくなりますが、山は年々高くなりませんよね。それはどうしてでしょうか?そうです、これも土壌微生物の仕業です。 彼らは地面に落ちてきた草葉、倒木、あるいはそこに棲んでいる虫、動物の死骸などをきれいに分解し、その成分を再度、草木の栄養源として根から供給しています。そのおかげで山や森などの自然はずーっと私達に色々な恵みを与え続けてくれているのです。
 私たちの暮らしの中でも微生物たちとの関わりがとても深いと言えます。

食べ物では「発酵食品」と呼ばれている物、例えば味噌、醤油、納豆、キムチ、パン、チーズ、ヨーグルト、清酒、ビール、ワインなどなど、美味しいものがたくさんありますが、私たちが何気なく口にしているこれらの食品は微生物たちの力なくして造ることは出来ません。

 土と同様、私たちのお腹の中にも多種多様な微生物(腸内細菌といいます)が棲んでいます。その数としては、腸の内容物1gあたり約100種類、100兆個がいると言われています。これを換算して、その微生物たちを一列に並べると約10万㎞、つまり地球2.5周分にもなります。(ホントに並べてみた人がいる訳じゃなく、あくまでも計算上の数字です)

凄いですね。たったの1gで…ですよ。ちょっと信じられないくらいたくさんの微生物たちが、いつの間にか私たちのお腹の中に棲みついていたのです。

 その微生物たちは私たちが毎日飲んだり食べたりしている食物を、昼夜休まず吸収しやすいように分解や合成して私たちの身体に供給しているんです。モチロン、彼らも食物が無いと絶滅しちゃいますから、彼らと私たち動物はお互いに“命の恩人”同志、共生関係にあります。

また、微生物は肉眼で私達の目には見えないとはいうものの、その人間だってジェット機に乗ったお客さんからして見ると、地上に住んでいるヒトの姿は目に見えません。つまり、チョット視点を変えてみると「人間社会」も「微生物の社会」もあまり変わらない世界と言えるのではないでしょうか。

共通しているところは、ヒトも微生物もあるいは昆虫や植物など命のあるものは全て、自然の中でお互いに助け合って生かされている「生き物」だということです。
さて皆さん、微生物の世界やその役割などをイメージができましたでしょうか。
自然栽培とは?
  木村さんの提唱する「自然栽培」は、化学肥料や農薬、除草剤などを一切使わず、畑の土を「自然のあるべき姿」に近づけて利用、あるいは作物を共生させる事によって、色々な作物が持っている本来の能力を最大限引き出してあげる栽培方法といえます。

 では、「自然のあるべき姿の土」ってどんな土なのでしょう?

そうです、木村さんが岩木山で偶然気付いたドングリの木の下の、あの匂いのする土です。

草木は地中深くに伸びた根から成長に必要な栄養分を吸収し、秋には葉や実を地面に落とし、それが土壌微生物の「食事」として分解され、その栄養分をまた根から吸収するという循環を数百~何千年も繰り返して来ました。モチロンその周辺に共生している昆虫や動物を含めてです。

この循環が自然本来の姿です。

 この自然の循環によって、農薬や化学肥料を使わずしても「健康な生命」を再生、育て上げるバランスのとれた良い土を創り上げ、長い間その自然のサイクルを維持してきました。

そして、この土の中には多種多様な数多くの微生物たちが、お互いにバランスを取りながら共生し生活しているわけです。一度、山の土を手にとって匂いを嗅いでみると解りますけれど、栄養的にも微生物的にもバランスの取れた健康的で力のある土は、決して腐敗臭はせず“本当の土の香り”がします。皆さんもぜひ一度体感してみてください。

 このような土の上に育てられた作物はどのようなものになるのでしょう?

微生物のイメージ創りのところで“土壌微生物”の事と“腸内細菌”のお話をしました。
私は“土は地球のお腹と一緒”だと思っています。何故なら、土の中とお腹の中と彼らの住処は違っていたとしても、そのバランスが崩れる事によって起きる現象はとてもよく似ているからです。

 ヒトは何らかの原因でお腹の調子が悪くなる(=腸内細菌のバランスが崩れる)と身体全体の調子が悪くなり、その状態が長く続くと病気になったり、最悪の場合は死に至ります。逆にお腹が丈夫で(腸内細菌のバランスが安定している)いつも元気な子供は病気にもかかりにくいし、たとえ発症したとしても回復力も抜群で健康的にスクスクと育ちます。バランスの良い腸内細菌叢のヒトは彼らが腸内で自らの身体を守るための免疫物質を産生し供給してくれているからなのです。

 土もお腹の中と一緒で、何らかの原因で土壌微生物のバランスが崩れると根の生長が阻害され、その上に育つ作物は生育が悪かったり、病気になったりあるいは生育途中て枯れたりします。
 バランスの取れた良い匂いのする土では根がスクスク育つため作物が生育する、あるいは自分たちの種を残すために必要な栄養分などをしっかり供給してくれます。その結果として植物の持っている能力を目一杯引き出す事ができ、生命力に溢れたその恵みを食べ物として私達に提供してくれます。
私たちの命を守ってくれるもの
 私達の命を永らえていくためには毎日の“食べ物”を無くして語ることはできません。

毎日食べている米、肉魚や野菜、果物などの食物は元を辿れば全て命があるものです。
工業的な合成加工食品は別として、これら以外の加工食品の原材料もみなそうです。

私たちは毎日色々なものの命、それもそれぞれの種を残そうとしている生き物の命を頂いているおかげで生きています。つまり、私たちの命はたくさんの他の命に支えられています。

 では、その支えてくれている多くの命が、本来の自然姿から大きくかけ離れた手法や環境で育てられ場合、そこに本来持つべき生命力がどのくらい培われるのでしょうか?
生産効率のみを追求するあまり、農業で一般的に使われている農薬や化学肥料は私たちに何をもたらしているのでしょうか。

 ヒトの抗生物質は悪玉菌をやっつけるだけではなく、善玉菌と言われる菌をもやっつけ、腸内細菌のバランスを崩します。当然それによる副作用が出たり、多用する事によって耐性菌をも産みだします。モチロン、使い方や使用予後の対応さえ間違わなければ、とても役に立つ物でもあります。

除草剤を含めた農薬や土壌消毒は、病原菌だけではなく他の土壌微生物をも叩きのめし、長年掛けてそのバランスを破壊します。その上更に様々な化学肥料の継続投入です。
土壌微生物たちの「食料」は落ち葉や草木などの有機物であって、化学肥料はではありません。
食物が無いと私達も飢え死ぬように、彼らも食べ物がないと死滅してしまいます。

土壌微生物が死滅するということは土が死ぬ、つまり作物は育たないということです。

世界各地で農地が砂漠化しているのは、この事が大きな要因になっています。またこれらの継続多投入は地下浸透、河川流入による汚染、温暖化ガスの発生など地球環境にも負荷を与え続けています。

このように自然の本来のあるべき姿を無視して生産効率のみを追求し、工業的に生産された食べ物は、果たして私たちの健康や命を、そしてそれらを産みだしてくれる土を、世代を超えて守り続けてくれるのでしょうか?

もちろん、私の答えは「NO」です。
最後に…
 私たちの命を支えてくれる健康的で生命力のある作物は、自然が長い時間をかけて創り上げてきた土があってはじめて創られるという事を理解いただけたでしょうか。

そして、忘れていけない事は、「土」はあくまで作物の土台である根の部分のお話です。作物は生長すると必ず地上部も形成されます。

農業とは、生産者による、再生産が可能な、生活を維持するための経済活動ですから、生育過程でも作物の本来の力を引き出すために、ヒトの手助けは当然必要です。

 木村さんが想像を絶するような過酷な時間と経験の末に生み出された“自然栽培”は作物の地下の部分と地上の部分の両方を自然の力を上手に利用して育てるという、今までの農業の常識を打ち破る “匠の技”です。そして、私たちの命の源となる生命力溢れた本来の食べ物として、収奪的ではなく持続的に供給し続ける事ができる素晴らしい技術だと思います。

 この素晴らしい自然の力を駆使して、時代を超えてヒトが生きていく上で最も大切な食べ物を生産してくれる方々が一人でも多く全国各地に増えてくれたなら、そして、このようにして生産された食べ物を数多くの消費者の方々に届けられたなら、日本国内だけではなく健康を望む世界の多くの人々にもきっと大きな幸せをもたらす事ができるでしょう。

私も微力ではありますが、この「自然栽培」の普及のために一助を担えればと思っています。


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